『墨のいろは』 ~墨の成分~

書は炭素エネルギーの芸術である!と、私の書の師匠、山本光輝先生は言う。

書に使う墨の成分は、基本的に煤の炭素と膠のタンパク質だけだ。膠は煤を固めるために使う。

硯に水を差して、墨を磨ると、墨液になる。その墨液を筆にたっぷりと含ませて、紙に文字を顕す。

書き手の意思というエネルギーと墨の炭素の組み合わせとしての書の軌跡が生まれる。ゆえに、書は炭素エネルギーの芸術といえるのだ。

そして、書の線と同様に、人間をはじめ、生物の体も、エネルギーと炭素の組み合わせでできている。生命もエネルギーと炭素でできているのだ!書と生命は、同じエネルギーと炭素でできており、書の線の軌跡は、生命の軌跡ともいえる。ゆえに、書にとって墨はとても大切なものだ。

墨の成分は、煤と膠であるが、香料を入れることもある。煤は、菜種油や松脂を燃やして摂り、膠は動物の脂分から余分なものを取り除いたゼラチンのことだ。動物の脂分である膠の臭みを取り、香りづけするために香料を入れることもある。

煤の成分である炭素は、炭素同士くっついて固まろうとする性質を持つ。車のタイヤは黒く、炭素成分(カーボン素材)が入っている。炭素がくっついて固まる性質を利用して、丈夫に作られている。

膠は、動物の脂分であるから、タンパク質だ。そのため、墨を瓶に入れて保管するのは良くない。なぜなら、タンパク質の膠は、空気に触れるとアミノ酸が分解されて、炭酸ガスと水蒸気になっていくからだ。肉が次第に腐敗して菌が増えていくのと同じである。肉を保存させるには、ラップを巻いて、冷蔵庫に入れる。墨液も、同じように空気に触れないように、冷蔵庫で保管をすれば、腐敗を遅らせることはできる。しかし、磨った墨は保管するよりも、新鮮なうちに使いきった方がよいだろう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました