茨城県下館(現筑西市)には、趣のある古い建物が残っている。懐かしい昭和風情が漂う街だ。
下館駅から徒歩十分、稲荷町通りと旧国道五十号の交差点に、とりわけ趣のある、「板谷波山記念館」がある。


板谷波山は、明治5年(1872)に茨城県下館で生まれた。昭和28年(1953)、工芸家として初の文化勲章を受章した近代陶芸の巨匠である。
葆光彩磁(ほこうさいじ)という独創的な技法を開発し、艶消しの葆光釉(ほこうゆう)によって、淡く光を放つ陶芸作品を残した。
「葆光」(ほうこ)とは光を包むという意味で、波山自身が命名した。なんと美しい名であろう。
麗しく美意識に溢れる作品は人々を魅了する。私は陶芸に疎く、その名を知らなかった。
陶器とは、鮮やかに染付けされたものという印象があった。波山の陶芸をはじめて見た時、淡いことに驚いた。そして、その美に魅了された。
記念館には、江戸中期創建の生家の他、展示館、東京・田端から移築した作業場がある。初めて訪れた時、令和3年秋季特別展「陶片❘創作のかたわらに」が開催されていた。
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完成に至らなかった陶片の展示だった。91歳と陶芸家として長命であったことを考えると、作品数は多くないという。
それは、常に厳しい姿勢で作陶し、気に入らなかったものはすべて割ってしまったからだ。
陶芸家として名が知られる前、極貧生活のなかにあっても、納得のいかない作品はすべて割ってしまったという。
妥協しない美意識と、未練なく割ってしまう潔さが凄い。
それだけに、作品となったものは、どれも素晴らしい。宮家からも愛され、出光美術館などで所蔵されている。「陶片のかけら」からでも、その美しい世界観を堪能できる。
作業場には、実際に使っていた道具が展示されている。本物だけに見応えがある。
特に、窯は「三方焚口倒焔式丸窯」という東洋と西洋それぞれの伝統様式を独自の発想と工夫で築いたものだ。こだわりを持って設計された窯から数々の名品が生れた。


生家は、醤油醸造業や雑貨商をしていた旧家で、質素で趣がある家だ。
父親は書画に親しみ収集し、母親は茶道をし、躾には厳しかった。幼い頃から芸術に触れて育ったルーツも知ることもできる。
ただ、普段は同館には作品は多くは展示されていない。なぜなら全国の美術館等で所有されているからだ。しかし、令和4年(2022)、生誕百五十年記念で、「板谷波山の陶芸―麗しき作品と生涯」の展示が行われる。同館ほか筑西市の「しもだて美術館」、「廣澤美術館」の3つの施設で、全国の所蔵品の多くが集まり、波山の陶芸を存分に見ることができる。
作品が一同に揃う貴重な機会である。ぜひ訪ね、その美を堪能したいと思った。
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